KIB: kurogane in black

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小説「終戦のローレライ」と嘘と真実と

 

何がきっかけという事ではないのだけれども、ふと思い出したことがあった。

Twitterでは文字数が多すぎるので、ブログに書いておくことにしたい。

 

思い返せば、私がブログを始めたころ、福井晴敏の「亡国のイージス」が発売されて、なぜか元信者界隈で大ヒットしていたことを思い出す。

 

作家の福井晴敏氏が終戦のローレライを書いたとき、1%の嘘をつくために99%の真実を書かないと、1%の嘘が成り立たない、みたいな発言をしていたことがある。

虚構であることが明らかな空想小説であってすら、たった1%の嘘をつくために、そこまで神経を使った。

 

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たとえば「終戦のローレライ」に搭乗する潜水艦「伊五〇七」は、物語の設定では「フランスの潜水艦シュルクーフは、ドイツ海軍に鹵獲され、後に日本へ回航された」ということになっている。また潜水艦なのに20.3cm連装砲塔があるという異形なモデルだ。

そんなものが第2次世界大戦当時にあるわけが...と言いたいところだが、このシュルクーフは実在の潜水艦で、作中の設定どおりフランスで建造され、連装砲塔もついているが、作戦行動中に消息不明になっている。

 

この消息不明というのが「実はドイツが鹵獲していて」という形で小説の世界に取り込んでいるわけだ。

 

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また作品には大和田通信所という帝国軍の通信施設を通じて、電信のやり取りをしている場面が出てくるが、小説が出た当時、実際に大和田通信所に勤務していた方が、その描写の正確さを見て驚いたという話が当時ブログか何かに掲載されていたのを見たことがある。

 

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潜水艦シュルクーフは主要な設定だろうが、大和田通信所の描写など物語全体からすれば些細なことにしか過ぎない。

しかし、その些細な描写のために大戦当時にそこに勤務していた人すら驚くほどの正確な描写を積み重ねて初めて、1%の嘘を盛り込めたということになる。

 

ちなみに「終戦のローレライ」は第二次世界大戦を舞台にして、海中で「機動戦士ガンダム」をやったような作品なんだけれども、この架空の物語をそれらしくでっち上げるために膨大な事実の積み重ねをし、そのなかにほんの少しだけ嘘をまぜて小説にした。

 

これに対して、現実世界で人をだまして己の欲望のために利用しようとすれば、それ以上に真実性がある話を持ってこなければならない。

 

悪徳宗教は非常にやりやすい点があって、原理講論の前編の様に誰も裏付けや確認ができないことをごちゃごちゃと積み重ねて、それらしく見せかけることができる。つまり、小説ですら1%の嘘をつくために必要だった99%もの真実を持ってこなくても良いことになる。

 

このため、「誰も裏付けが取れない真理」に立脚した「神の摂理」を展開した結果、誰も幸せにならないのに、家庭の幸せを主張するような歪な組織ができあがった。「終戦のローレライ」なら娯楽作品として楽しんだり、好きじゃないなら読まなければ良いだけだ。誰の迷惑にもならない。

 

しかし悪徳宗教だけはだめだ。

 

好きな人が楽しめば良い、という訳に行かない。放置しておけば被害が拡大する。

 

その主張には、10%ぐらいは事実があるかもしれないが、残りの90%が嘘と仮定と想像(あるいは妄想)によってつくられた架空の理想論だけでできている。

 

「私たちの居場所を認めてほしい」という信者たちは、自分たちが架空の理想論に執着していることを認めて、現実世界と折り合いをつけずに、自分たちの世界だけで生きる選択をすべきだろう。

 

この世に関わらないのであれば、誰も信者の思想・信条の自由に踏み込むつもりはない。この世に関わりたいのであれば、この世のルールを守り、尊重し、法律を守る善良な社会人として生きるべき。

 

自分たちの手前勝手な教義に立脚して、法律を無視したり、人をだましたりすべき正義はないと思う。